「百塔の街」チェコの首都プラハの街並みが美しすぎる【旅行記】
第5話 プラハの街で確かに生きた、数日間の記憶
こんにちは!!
オーストリアのハルシュタットという湖の素敵な街から、チェコのチェスキークルムロフという小さな洒落た街を経由して、プラハへと辿り着きます。
なんだかもう語感が素晴らしい。素敵な響き。意味もなく連呼したい。
そんな中世ヨーロッパの街並みが残るチェコ、そして、石畳の道や古城、独特の雰囲気の漂う、「魔法の都」とも「百塔の街」とも称賛されるプラハへ
Let's Go!!
エピソード1 本当にプラハの街を歩いてもよろしいのでしょうか
パラパラと小雨が降ってきた。空はどんよりと厚い雲に覆われている。
地下鉄を出てから続く石畳の道に、僕のスーツケースはゴロゴロと鈍い音を立てている。
そんな中、予約したホテルを探し、さ迷い始める。
だけどーー。
目の前に広がる世界に、プラハの街並みに、わあ、と思わず声がこぼれ出た。
遂に来た、と思った。心の底から思った。
ここに来たくて、来たくて、日本でどれほど身を粉にして働いただろう。
本当に僕なんかがプラハの街を歩いてもよろしいのでしょうか、そう誰かに問いたかった。
まるで恋焦がれた少年のように、プラハを前にして束の間、足も時も止まる。
明るい太陽の光が、空に広がった厚い雲を突き抜けて僕たちに降り注ぐ、そんな気さえした。
実際はそんなこともなく、小雨はなおも続いている。
山登りで培った土地勘を存分に活かし、予約したホテルへと辿り着く。
「一生に一度は泊まりたい!贅沢なサービスとゴージャスな内装に酔いしれよう」
なんてガイドブックで紹介されているホテルに、今回泊まるらしい。
え?いいの?
そんなまさにマダムたちへの文章を発見したのはもちろん予約をした後。
ほえぇ、、、そんなに素晴らしいホテルなんだ、と開いた口が塞がらなかったことは言うまでもない。
そんなつもりじゃなかったし、学生の貧乏旅行のはずなのに、なんだか逆にすみませんって気持ちで胸がいっぱいだ。
恐れ多すぎて、腰を極限まで低くして扉をくぐる。ホテルのロビーに足を踏み入れる。
ホテルの外観は歴史を感じる建築で、内装は優雅で美しい。落ち着いた空間が広がり、プラハの街にすっかり溶け込んでいる。
朝食は一流ホテルを感じさせる品揃えにサービスで、温かい紅茶を片手にコーヒーを優雅に飲んでみたりなどをした。
だけどやっぱり、そんな素晴らしいホテルに、ひょろりと背の高い友人と男2人で入ることが、とても場違いなのではなかろうかと思い、終始ドキドキが止まらないのであった。
エピソード2 この街は傑作だ
さて、気を取り直して、旧市街広場へとやって来た。
ここはプラハの中心地であり、教会や宮殿、旧市庁舎など見どころが集中している。
広場のまわりにはプラハの歴史を彩ったあらゆる時代の建築様式が混在し、なんとも美しい。
テクテクと広場を歩きながら、雰囲気溢れるその世界観を体感する。
中でも僕を虜にしたのは、旧市庁舎にある天文時計だ。
す、素晴らしすぎる。
当時の宇宙観(天動説)に基づいた天体の動きと時間を表しているという。
時間を知るために見るのではなく、天文時計そのものの美しさに惹かれて見てしまう、そんな時計だ。
家に持って帰りたいと本気で思った。
大空の下で輝く真昼間の天文時計も、照らされて暗闇に浮かび上がる天文時計も、どちらも素敵だった。
毎時ちょうどに動き出す仕掛けも、なんだか可愛らしかった。
天文時計をしばし眺め、そのまま広場を抜け、旧市街をさらに歩く。
プラハの中央をゆったりと流れるヴルダヴァ川が見えてくる。
そして、その川に架かるプラハ最古の石橋、カレル橋の美しさに思わず見惚れる。
橋を渡った先に広がるオレンジの屋根の家々や壮観なプラハ城の景色と相まって、カレル橋がより素敵に思えてくる。彼(橋)に魅了される。
橋の下を船が行き交い、頭上に広がる青空では白い雲がゆったりと動いている。
僕らは橋の上を、のんびりと歩く。
ここは絶好のフォトスポットだ。カレル橋で、友人に写真を撮ってもらう。
この旅で何度も写真を撮ってもらいるので、彼は慣れた手つきだ。
僕を適当に写真の中に収め、角度も遠近も考えず、彼は突っ立ったまま何回も、何十回も、パシャパシャしてくれる。
僕が何度も写真をせがむものだから面倒くさくなって、まるで軽くあしらわれているかのようだ。
そんな心のこもらない奴が撮る写真だから、どの写真の僕も、なんだかヘンテコな表情をしている。笑えてくる。
だから僕もお返しに、彼のヘンテコな表情をたくさん写真に収めてあげる。
だけど彼はそんな「なんて顔してんだ」というような写真を、驚くことなかれ、嬉しそうにインスタにアップしていた。
どうやらこの街に、着飾った被写体など必要ないらしい。
目で、耳で、鼻で、舌で、皮膚で感じる、ありのままのプラハに、その世界観に、僕らはただただ夢中だった。それだけで満足だったのだ。
どんな僕らも、プラハの街並みの前では、あまりにも小さすぎる存在だった。
ここには、この街には、これまで出会ったことのない傑作ともいえる、美しすぎる世界が待っている。
その世界では誰も僕らを拒絶しない。ただ生きたいように、素直に一日一日を謳歌すればいい。
エピソード3 オーケストラとチーズフライ
プラハでは、毎夜毎夜、通い詰めるかのように僕らはある場所へと出掛けた。
それは、コンサートホールであり、教会である。しんと静まり返る中、オーケストラの演奏を聴き、堪能した。
コンサートホールはアールヌーヴォー様式の内装が美しく、上品な雰囲気が漂っていた。その空間に存在できるだけでも、僕はもはや幸せを感じた。
さすが、「プラハの春」国際音楽祭の幕開けが行われるスルタナ・ホールなだけあった。
だけど、僕は教会でのコンサートの方が好きだった。
教会特有の厳かな雰囲気、装飾の凝った内装、高い天井に響く音たち、曲が終わるごとに訪れるしんとした静寂、外気温とは異なるひんやりとした冷たさ、それらが相まってまるで異空間かのようだった。
観光で訪れる教会とは違う、素の表情が見えた気がしたのだ。
寝ちゃだめだ、起きろ、なんて不毛なやり取りをする暇もなく、オーケストラの演奏に聴き入っていた。
絶対音感なんて持たないし、リコーダーさえも苦手だったけれど、あの時の演奏や雰囲気は、今も僕の五感たちが覚えている。また訪れたいと、本気で思う。
さて、オーケストラの演奏を楽しんだあとは、ディナーを求め街へと繰り出す。
実はチェコ、国民1人あたりのビール消費量が世界一という、ビール愛に溢れた国なのだ。ホスポダと呼ばれるビアホールでは、地元のひとたちが楽しそうにビールを飲んでいる。
僕らは、カレル橋の近くの小洒落たレストランへと入る。ヴルダヴァ川を眺めることができる、素敵な立地にある。
あいにく僕らの席からはほとんどヴルダヴァ川は見えない。けれど、見えるものだけが世界の全てではない!などと豪語し、雰囲気を楽しみながら料理が運ばれてくるのを大人しく待つ。
きた。これ。あ。うまい!
チーズフライ。サクッとした衣に、トロッとしたチーズ。タルタルソースをつけて召し上がれ。
絶品だ。チェコの伝統料理であるらしい。
日本でもチーズフライはあるが、なんといってもチェコのはデカくて濃厚だ。その上にビールを流し込むと、僕はもうさっきのオーケストラのことなど完全に忘れた。申し訳ない。美味しすぎる。
帰国日が近づいてくる気配を感じながらも、プラハの夜を僕は、僕らは、最高に彩ったのだった。
この国に居られる時間を惜しむかのように、レストランを出てからもまた、僕らはプラハの夜道を自由気ままに闊歩した。
エピソード:追憶
目の前の世界を思う存分堪能する、そうやって僕は旅をした。
石畳の道が、時計仕掛けが、ゆったりと流れる川が、ひんやりと冷たい教会が、ビールを嬉しそうに飲む人たちが、静まり帰った夜道が、それら一つひとつが、とにかく最高だった。
街に溶け込みながら、毎日、幸せを感じていた。
これらは、まだまだ寒さが身に堪える、冬のある日のお話だ。
だけど同時に、きっといつになっても色褪せることのない、僕がプラハの街で確かに生きた、数日間の記憶でもある。
(完)
最後までお読みいただき、ありがとうございました!